影響
「この娘ちょっと媚び過ぎてていやらしいわね」
テレビを見ながらママが言う。画面には最近人気急上昇中と、お決まりのキャッチをつけられた高校生アイドルがバラエティーに出演していた。
「そう?かわいいじゃん」
私は、ああかわいい子だな、としか思ってなかったし、「こびる」の意味がよく分からなかったので、そんな答えを返した。
アイドルと見ると、何かしら文句をいうママに、少し抗議する気持ちもあったかもしれない。
「あんたは、趣味が悪いわ」
ママはそう言い捨てると、黙ってしまい、リモコンでチャンネルを次々と変えていった。その間こっちを振り向きもしない。機嫌を悪くさせてしまったようだ。
機械的にチャンネルを変えているようで、一瞬だけさっきのアイドルの顔が映って消えた。
多分私は、このアイドルのことをあまりよく思わなくなるだろう。ママの考えは私に伝染するのだ。そして、自然と私の好みはママの好みとすり変わり、同じになるんだ。
こういうのを「影響」っていうのかな、とボンヤリ思った。
テレビを見ながらママが言う。画面には最近人気急上昇中と、お決まりのキャッチをつけられた高校生アイドルがバラエティーに出演していた。
「そう?かわいいじゃん」
私は、ああかわいい子だな、としか思ってなかったし、「こびる」の意味がよく分からなかったので、そんな答えを返した。
アイドルと見ると、何かしら文句をいうママに、少し抗議する気持ちもあったかもしれない。
「あんたは、趣味が悪いわ」
ママはそう言い捨てると、黙ってしまい、リモコンでチャンネルを次々と変えていった。その間こっちを振り向きもしない。機嫌を悪くさせてしまったようだ。
機械的にチャンネルを変えているようで、一瞬だけさっきのアイドルの顔が映って消えた。
多分私は、このアイドルのことをあまりよく思わなくなるだろう。ママの考えは私に伝染するのだ。そして、自然と私の好みはママの好みとすり変わり、同じになるんだ。
こういうのを「影響」っていうのかな、とボンヤリ思った。
- [2006/04/21 13:23]
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百物語
闇のただよう暗い部屋には、後一本の蝋燭の明かりだけが
ただ仄かにあたりを照らしている。
「そこの殿様が、えらい好色な殿様でな
すれ違った女子がべっぴんだったとあれば
すぐに家来を使って、さらってきては、手篭めにしとったんだと。
さらわれた女は、ふさぎ込んだり自決しようとしたり、
かわいそうなことこの上なかった。
ある日、その殿様がな、城下町で”これぞ!”という理想の面の女に出くわした。
いつもの調子で家来を使うが、一向にその女が見つからんかった。
どれだけ町を探しまわっても、人に聞いても
そんな女は知らないと言う。
何日待っても、なんの進展もないんで、
とうとうしびれを切らした殿様自身が探しに出て行くことになった。
籠を用意して町へでかけていくと、
ばったり、その探していた女に出くわした。
女は切れ長の目を殿様に向けて、
そして、つっと竹やぶの中に入る。
殿様は家来が止める間もあらばこそ
籠を降りてそのまま竹やぶに入って行った。
そしてそのまま、戻ってこなかったんじゃと」
「へぇ。そんで、どうなったんじゃ?」
「それで仕舞じゃ」
「なんじゃぁ、つまらんではないか」
「つまらんも何も、事実と言うのはそんなもんじゃろう
作り話じゃないっちゅー証拠じゃ」
その時、生温い風が蝋燭の炎を揺らし
そしてそのまま、最後の明かりは消えた。
「しかし、正吉の話を最後に持ってくるんじゃなかったなぁ
拍子抜けじゃ」
「え?正吉は今日は具合が悪い言うて、ここには来とらんぞ」
「は?だってさっきの声は正吉だろう?」
「わしもそうじゃと思っとったが…そういえば少し違うような」
「だって他にあんな若い声の奴はおらんじゃろう?」
真っ暗な中、お互い顔を確かめようと動く気配と衣擦れの音。
しかし最後の蝋燭が消えた今、
そこに何人の人がいるのか
誰が座っているのか、何一つ解らない。
たとえ自分以外の気配が、すべて魑魅魍魎のものであったとしても。
「おい、蝋燭、明かり!つけろ」
「あ、ああちょっと待て、暗くてよくわからん」
ばたばたと動き回る人の気配。
やがてようやく、数本の蝋燭に明かりがつけられた。
馴染みの顔が浮かび、ほっとする。
しかしそこには
正吉の姿も
あの声を持つような若い男も
見当たらなかったのだった。
ただ仄かにあたりを照らしている。
「そこの殿様が、えらい好色な殿様でな
すれ違った女子がべっぴんだったとあれば
すぐに家来を使って、さらってきては、手篭めにしとったんだと。
さらわれた女は、ふさぎ込んだり自決しようとしたり、
かわいそうなことこの上なかった。
ある日、その殿様がな、城下町で”これぞ!”という理想の面の女に出くわした。
いつもの調子で家来を使うが、一向にその女が見つからんかった。
どれだけ町を探しまわっても、人に聞いても
そんな女は知らないと言う。
何日待っても、なんの進展もないんで、
とうとうしびれを切らした殿様自身が探しに出て行くことになった。
籠を用意して町へでかけていくと、
ばったり、その探していた女に出くわした。
女は切れ長の目を殿様に向けて、
そして、つっと竹やぶの中に入る。
殿様は家来が止める間もあらばこそ
籠を降りてそのまま竹やぶに入って行った。
そしてそのまま、戻ってこなかったんじゃと」
「へぇ。そんで、どうなったんじゃ?」
「それで仕舞じゃ」
「なんじゃぁ、つまらんではないか」
「つまらんも何も、事実と言うのはそんなもんじゃろう
作り話じゃないっちゅー証拠じゃ」
その時、生温い風が蝋燭の炎を揺らし
そしてそのまま、最後の明かりは消えた。
「しかし、正吉の話を最後に持ってくるんじゃなかったなぁ
拍子抜けじゃ」
「え?正吉は今日は具合が悪い言うて、ここには来とらんぞ」
「は?だってさっきの声は正吉だろう?」
「わしもそうじゃと思っとったが…そういえば少し違うような」
「だって他にあんな若い声の奴はおらんじゃろう?」
真っ暗な中、お互い顔を確かめようと動く気配と衣擦れの音。
しかし最後の蝋燭が消えた今、
そこに何人の人がいるのか
誰が座っているのか、何一つ解らない。
たとえ自分以外の気配が、すべて魑魅魍魎のものであったとしても。
「おい、蝋燭、明かり!つけろ」
「あ、ああちょっと待て、暗くてよくわからん」
ばたばたと動き回る人の気配。
やがてようやく、数本の蝋燭に明かりがつけられた。
馴染みの顔が浮かび、ほっとする。
しかしそこには
正吉の姿も
あの声を持つような若い男も
見当たらなかったのだった。
- [2005/11/21 23:20]
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逃げる
「オカマなんて、現実から逃げてるだけじゃない!
自分が男だっていう事実から、目を背けたいだけじゃない」
頭が真っ白になっていた。
人を傷つける言葉は、言っている本人にも突き刺さる。
私の血は何色だろう。
しかしその血の色が何色であろうと、
今彼が着ているキラキラした装飾の服の方がきっと鮮やかだ。
そして彼の目の方が、とても澄んでいるに違いない。
そして彼の口からもれる声は、とても穏やかで
私の傷口はみるみるうちに塞がって行くのだ。
「現実から逃げなかったから、オカマになったのよ。
自分に正直に生きようと思って、いろんなものと戦った。
そして今私は、とても幸せで、満足。
これからも戦って行くわ。
あなたは、そうやって逃げて行くの?」
ああだからこの人は
周りから浮き出て見えたのだ。
あの時、あの商店街で
私が彼を見つけたのは、
その格好が奇抜だったからじゃなかった。
彼は輝いていたのだ。
周りの人たちよりも何倍も
輝きを放っていたからなんだ。
自分が男だっていう事実から、目を背けたいだけじゃない」
頭が真っ白になっていた。
人を傷つける言葉は、言っている本人にも突き刺さる。
私の血は何色だろう。
しかしその血の色が何色であろうと、
今彼が着ているキラキラした装飾の服の方がきっと鮮やかだ。
そして彼の目の方が、とても澄んでいるに違いない。
そして彼の口からもれる声は、とても穏やかで
私の傷口はみるみるうちに塞がって行くのだ。
「現実から逃げなかったから、オカマになったのよ。
自分に正直に生きようと思って、いろんなものと戦った。
そして今私は、とても幸せで、満足。
これからも戦って行くわ。
あなたは、そうやって逃げて行くの?」
ああだからこの人は
周りから浮き出て見えたのだ。
あの時、あの商店街で
私が彼を見つけたのは、
その格好が奇抜だったからじゃなかった。
彼は輝いていたのだ。
周りの人たちよりも何倍も
輝きを放っていたからなんだ。
- [2005/11/13 18:24]
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白い月
白い月が
真昼の空に出ていた。
いつかどこかで
白い月を
切りそこないの大根に例えた話を見た。
私は
大根を薄く切る時
それを思い出す。
真昼の空に出ていた。
いつかどこかで
白い月を
切りそこないの大根に例えた話を見た。
私は
大根を薄く切る時
それを思い出す。
- [2005/11/13 18:09]
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火葬場
こういう仕事は、淡々と進めた方がいい。
周りの景色はモノクロ。
白と黒の世界。
涙の色は透明。
僕の顔は無表情で、それはその場にしっくりとくる。
扉の向こうは極彩色。
その紅の中で、静かに、静かに、欠片になって
そうして魂は永遠に宿を失って行く。
並ぶ白黒の影の、目の端だけが赤く染まっている。
何度、この場に立ち会っても
それを見ると、僕の心はじんじんとして、透明になってしまうから。
こういう仕事は淡々と進めた方がいい。
周りの景色はモノクロ。
白と黒の世界。
涙の色は透明。
僕の顔は無表情で、それはその場にしっくりとくる。
扉の向こうは極彩色。
その紅の中で、静かに、静かに、欠片になって
そうして魂は永遠に宿を失って行く。
並ぶ白黒の影の、目の端だけが赤く染まっている。
何度、この場に立ち会っても
それを見ると、僕の心はじんじんとして、透明になってしまうから。
こういう仕事は淡々と進めた方がいい。
- [2005/11/13 17:55]
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